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医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方~「デジタル化≠DX」を踏まえた医療DX~ 

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

医療DXコンサルティング01

令和4年6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」、いわゆる「骨太方針2022」が閣議決定されました。

「骨太方針2022」には、医療分野では医療DXの推進が明確になり、「医療DX推進本部(仮称)」の設置などが記載されています。医療DXの推進を図るためには、オンライン診療の活用を促進するとともに、AIホスピタルの推進及び実装に向け取り組むことも明記されており、医療DXが明確に推進されつつあります。この記事では、医療におけるDXとは何か、取り組み事例からみる医療DXの必要性や進め方について詳しく解説します。

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医療DXとは?

経済産業省が平成30年9月7日に出した「DX レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」では、DXの定義を以下としています。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

要約すると、外部環境の変化に対応して競争優位性を確立するために、デジタル化により組織変革を行い、ビジネス・モデルを変革することです。

弊社では「DX=D×CX」という公式を用いることが増えています。Dはデジタル、CXは組織変革(Corporate Transformation)です。

DX=D×CX

ポイントは「変革(Transformation)」です。そのため、組織や企業の変革のCXだけでなく、産業構造自体を変革するIX(産業変革:Industrial Transformation)にまで至るケースもあります。デジタル化によりCXやIXを実現し、ビジネス・モデルまで変革することがDXです。

病院DX

デジタル化との違い

電子カルテやRPA、タブレットPCなどデジタル製品を導入する「単なるデジタル化」と「DX」は概念が異なります。

デジタル化は、業務を自動化システム化し、業務負担の軽減や作業の効率化によって生産性をアップさせることが目的です。一方、DXは、ビジネスモデルそのものを変革したり生み出したりして新たな価値を提供することです。

そこで「デジタル化≠DX」を念頭に置いて医療DXの文脈を読む必要があります。7月に開催された国際モダンホスピタルショウ2022を見学に行ったところ、多くのブースには「DX」と書かれていました。しかし、組織変革やビジネス・モデルの変革にまで至っている本当のDXレベルのソリューションは限られていました。やはり医療DXについては、“それは単なるデジタル化の話か?”、“組織変革やコスト構造の変革に至るDXの話か?”と「デジタル化≠DX」を念頭に用語の定義を分けて議論をすべきでしょう。

医療DXコンサルティングレポート

病院におけるDX

「DX=D×CX」という公式を病院に当てはめて考えてみます。

例えば、紙カルテを電子カルテに置き換える、事務部門の定型反復の事務作業をRPA(=パソコン内のキーボード・マウスの定型反復作業を代替するロボット)に置き換える、などの取り組みは単なるデジタル化です。これだけでは、組織変革もビジネス・モデルの変革も起きていません。コスト構造においても固定費としての人件費はほぼ変わらず、デジタル製品の費用が追加計上されるだけになります。こうした「単なるデジタル化」がこれまで続いていたので、「デジタル化=費用がかかるだけ」という認識の経営者が多くなったのだと思います。

一方、こうした単なるデジタル製品の導入だけでなく、デジタル化を行うことで看護職員の人員配置を見直し、病棟の施設基準の類上げ(入院料の変更)を行う。または、事務部門の人員配置を見直し、一部の人員を地域連携部門の渉外担当や健診部門の企業健診や人間ドックの営業担当に再配置する。こうした取り組みを行うことができれば、人員の再配置という組織変革(CX)が行われ、入院料の変更や健診収益の向上などビジネス・モデルの変革も可能になります。こちらが本当の「医療DX」です。

病院におけるDX

事例からみる医療DXの必要性

次に医療におけるDXの必要性について、病院の現状や取り組み事例とともにご紹介します。

病院建替えへの応用

建替えを控えている病院では人員配置だけでなく、新病院の事務管理部門の延床面積を圧縮する動きがあります。実際に、地域医療連携推進法人では、参加する複数医療法人の情報を集約するデジタル製品を導入するだけでなく、事務管理機能を地域医療連携推進法人本部に集約して事務職員の総数を削減してコスト構造を変革している事例もあります。

地域医療連携推進法人だけでなく、グループ病院の場合は、事務管理部門の機能をデジタル化することで、グループの別病院に集約・一元化し、建替え対象の新病院では最低限の事務職員しか配置しない組織変革を行うことで、事務管理部門の延床面積を圧縮して建築します。

福祉医療機構の「2020 年度(令和2年度)福祉・医療施設の建設費について」によると、令和2年度における病院建築の㎡単価は 370千円です。昨今の物価高騰で、現実の建築単価はさらに向上していると推察されます。また、全国公私病院連盟が行った「令和2年病院運営実態分析調査の概要」によると令和2年度の100床当たり建物延床面積【総数】のうち管理・サービス部門の面積は2,376㎡です。150床の病院の場合、管理・サービス部門は約3,564㎡となります。

もし、DXによってこの1割である356㎡を圧縮できれば、最低でも131,720千円の建築コストの削減が可能になります。この事例でも、病院DXにより、事務職員の組織変革と建替えの延床面積が圧縮され、病院のコスト構造の変革へと繋がるのです。

事例からみる医療DXの必要性

三位一体の取り組みでのIX

この記事では「DX=D×CX」としましたが、この地域医療連携推進法人などを活用した地域再編にまでなれば、CXではなくIXに至ります。実際に、各都道府県の地域医療構想などでは、医療保険としての慢性期機能を介護保険としての介護医療院へ転換するケースがあります。これは産業をまたいで変革が起きている事例です。個々の法人・病院におけるCXだけでなく、デジタル化を通じて業界をまたいだ変革であるIXまで進むことが医療業界でも出てくるでしょう。

特に医療業界では、三位一体の取り組みとして、地域医療構想・医師働き方改革・医師偏在対策が進んでいます。医師偏在対策の一環として新専門医制度の見直しが進み、専門医を目指す若い医師の派遣先が新専門医制度上の基幹施設・連携施設へ集約化が既に進んでおり、医師確保の面で病院の再編・統合が進みつつあります。

これに加えて、地域医療構想の目標年である2025年に向けて、2024年の医師働き方改革と診療報酬・介護報酬ダブル改定などが控えており、病床機能再編に伴う病院の再編・統合が強固に推し進められています。地域医療連携推進法人やM&Aなども活用したIXが迫られていきます。

患者体験価値を向上する医療DX

政策面だけでなく、患者体験価値向上の面でも産業を超えたIXが進んでいます。

医療と介護の連携は従来からありますが、そこに加えて両者で共通する食事(給食)の共有化としてのセントラルキッチン、その食材の生産元である農業生産法人との連携なども進んでいます。さらに、医療・介護双方で求められる通院・通所の手段としての介護タクシーなど公共交通との連携なども地域によっては進んでいます。

こうした医療・介護・給食・農業・公共交通など産業をまたぐ中で、同一の顧客(患者・利用者)の体験価値を切らさずに向上させていくためには、産業の垣根を超えた情報連携が求められます。この中でデジタル技術を活用することが考えられています。

患者体験価値を向上する医療DX

コスト構造変革

IXの中で生き抜くためにも、コスト構造の変革が求められDXが必要になってきます。

全国で採用が難しくなっている調理員の確保策としてのセントラルキッチンは、間接人件費の共有化(シェアリング)の典型例ですが、同様に総務・経理・人事など事務管理部門の共有化なども管理会計の面で成果が出やすいです。

事務管理部門が取り扱う内容は情報が多く、デジタルで共有化がしやすく、コスト構造変革がしやすい領域です。各産業の事業所ごとに総務・経理・人事など事務管理部門を配置するのは非効率です。そのため、デジタルで一ヵ所に集約化したり、リモートにして域外の方に委託したりするなどコスト構造の変革が可能です。

弊社でも、直接業務のコンサルティングは大阪・東京・福岡・札幌・松山・仙台などの全国各地に人員を配置していますが、コンサルティングの後方支援(バックオフィス機能やインサイドセールス機能)は札幌や福岡に集約化しつつあります。

本記事も福岡支社所属の私が執筆した内容を札幌オフィスの後方支援担当者にプルーフ(誤字脱字の確認・修正などの文章校正)してもらっています。やはりDXのポイントは「変革(Transformation)」です。

DXで利益体質へ!DXの進め方

DXの病院経営における効果としては、病院の組織変革とそれに伴うコスト構造の変革です。

新型コロナウイルス感染のまん延以降は様々な補助・支援事業が行われたため、病院の損益状況は時系列比較が難しくなっています。そこで、新型コロナウイルスまん延前の「平成30年度 病院経営管理指標」を見てみると、医療法人・一般病院(N=238病院、平均稼働病床数141.5床)の医業利益率は1.4%、経常利益率は2.0%です。つまり、利益率1~2%と一般病院は薄利な事業体質になっています。このような薄利な事業体質では、昨今の原油高などの物価高騰や就業人口の減少に伴う採用コストの増大などの外部環境変化に対応できません。

名経営者として名高く、京セラ株式会社やKDDI株式会社の創業者である稲盛和夫氏は「10%くらいの利益率が出せないようでは、経営のうちに入らない」と言われます。外部環境の変化に対応して競争優位性を確立するために、デジタル化により組織変革を行い、ビジネス・モデルを変革するDXが求められます。薄利な事業体質になっている病院でこそ、DXは必要だといえます。

では、具体的にDXはどのように進めていくべきでしょうか。

デジタル化により組織変革を行い、ビジネス・モデルを変革することが目的で、その手段がデジタルです。そこで、目的から逆算して、その目的に最適なデジタル製品を選定するというステップになります。

つまり、CXやIXのゴールイメージを最初に決めること。そして、そのゴールイメージと現状のギャップを可視化して、その課題箇所を特定すること。その課題解決に最適なデジタル製品を選定するという流れになります。

病院CXのゴールイメージ

弊社では、経営層のヒアリングでCXやIXのゴールイメージを把握して、現状とのギャップや課題箇所を特定するために現場担当者ヒアリングや現場ラウンドを行う「病院DX初期診断」を行っています。電子カルテやRPA、タブレットPCなどデジタル製品を導入する「単なるデジタル化」にならないように、最初に目的を定めることを重視しています。

病院DX初期診断サービスの詳細やご相談は下記ボタンからお問合せください。

組織変革(人員配置最適化)・コスト構造変革
のための「DX戦略策定コンサルティング」

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 副部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。現在は、病院CX (組織変革)のための人事制度改革を支援するとともに、D(デジタル化)のための医療情報システム・RPAの導入支援を手掛ける。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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